中古住宅売買契約の際に、住宅診断について重説で確認すべしとする宅建業法の改正案を、国交省が今国会に提出するというニュースが数日前にありました。2018年の施行を目指しているそうです。
中古住宅診断については、2015年6月には「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が策定され、国交省はそれなりにやる気のある姿勢を見せているようにも思えるのですが、今回の業法改正が実現したとして何かが変わるんでしょうか。
参照: (PDFファイル) 既存住宅インスペクション・ガイドライン – 国土交通省
スポンサーリンク
目次
1. 国土交通省の宅建業法改正案
詳細はわからないのですが報道によると
改正案は、仲介契約時の契約書などに住宅診断の有無を記載する項目を設けることを不動産業者に義務付けることが柱。診断する場合は、不動産業者があっせんする業者が実施する。診断結果は、契約前に不動産業者が買い主に行う重要事項説明に盛り込むこととした。また、最終的に売買契約を結ぶ際には、家屋の基礎や外壁などの状態を売り主と買い主の双方が確認し、確認事項を契約書に明記するようにする。
ということだそうです。つまり、
・ 住宅診断の有無を重説・契約書の記載説明事項にする
・ 診断を行う場合は診断結果を売主・買主が確認し契約書に記載する
・ 診断は不動産業者があっせんする業者が行う
ということのようです。実際の改正案を見てみないとなんとも言えませんが。
2. インスペクションのニーズ
2-1. 既存住宅インスペクションの理想
そもそも住宅の性能とか品質とかは、新築においてでさえも住宅によって異なりますが、中古となると個々の環境も異なり、経年劣化の様子も維持管理の仕方も様々なので、この点について買主は不安なことも少なくない、というのが前提になっています。
そうであれば、既存住宅についての性能・品質について、診断によって客観的な評価・判断を共有できる仕組みがあれば、既存住宅購入の不安は軽減され、中古住宅市場が活性化するのではないか、という話です。
もっぱら買主視線のようでもありますが、一般の(業者ではない)売主からしても、インスペクションを経れば、良好な結果であれば売りやすくなったり価格を維持出来たりできるメリットや、問題点があっても診断機関の判断を経て買主と確認合意ができてトラブルになりにくい、などのメリットがあると言われることもあります。
2-2. 既存住宅インスペクションの現実
結構良さそうな話ですし、10年前に比べればインスペクションを行う事業者も増加しています。インスペクションに関する資格は統一されているとは言えませんが、例えば「公認ホームインスペクター資格試験」などの知名度はそこそこ上がってきたかなとも思います。私も数年前に取得しました。取得しただけですが。
既に先行して、「売買仲介時にホームインスペクションを実施します」を謳っている業者さんもおられます。当地にはほとんどいませんが。
私、ホームインスペクター資格を取得したぐらいなので多少の関心はあり、実は仲介業者さんに会うたびに何気なく、インスペクションについてどう思うかを質問しています。99%ぐらいの答えは、
「あんなもの売主にしたら何のメリットもないし」
「インスペクションさせてくれとか言ってきたら、それなら買ってくれんでええわ、と言うね」
「めんどくさい」
です。買主が売主の承諾をとってインスペクション業者に検査させている時に、仲介業者がぴったりはりついてるなんて話も良く聞きます(笑)。ほんの一部だけ「一般のお客さんのためにいずれこういうものが常識化していかないとダメだよね。」という人もいます。
総じて、売買仲介業者(特に売主側視線でしょうが)にとっては、インスペクションなんて邪魔くさいもの、というのが現実じゃないかな、というのが私の肌感覚です。客付中心の業者さんでも「あんなもの面倒でしょう」「成約にマイナス作用の方が大きいでしょ」という人が多いです。もちろん、そう考えない業者さんもいるでしょう。いずれにせよ、良い悪いの問題ではなく大勢としての現実はそうなんじゃないかな、と思います。
3. 重説項目になるとインスペクション実施は促進されるか
3-1. 個人的には普及した方が良いと思う
個人的な意見としては、安い買い物ならともかく、それなりの高額商品であれば信頼できる第三者の評価を知りたいというのは理解できます。例えば、1千万単位の高額な骨董品を目利きもできないのに買う人はあまりいないと思いますが、骨董品ならそもそも買わないという選択は簡単です。でも住宅はもっと一般的な商品です。目利きができないので新品(新築)を買うという選択をするということが一定数あるなら、ここをクリアできれば多少なりとも中古の流通に資する部分はあるのかな、と思います。
もちろん、今対象としているインスペクション自体が目視確認を基本とした簡易診断である、ということの限界もあるとは思いますが、あまりヘビーにするとまた普及しないという面も考えられますし、今回は本筋から外れてしまうのであまり立ち入らないことにします。
3-2. インスペクションの有無を重説に記載し説明する義務
率直に言って、このことによってインスペクションが促進されるとは思えません。診断の有無を記載し、診断があるなら診断内容を説明し、ないなら「なし」と説明する。それだけだとすれば(そして恐らくそうだと思いますが)、「無」の記載と説明がひたすら行われるだけ、と予想されます。フォーマットに追加され、重説の紙面が少し増えて、紙が消費されるだけ。森林が心配です。
例えば、既に重説事項となっている「石綿(アスベスト)使用調査結果の有無」や「耐震診断の有無」についても、調査や診断があればその内容まで記載・説明する必要がありますが、無ければ「無」で終わりです。重説記載・説明の義務化そのものが、調査や診断を促進することにはなりません。
結局のところ、政策的に一定の「めんどくさい」行為を促進したいのなら、それをやるメリット(あるいはやらないデメリット)を与えるなければその効果は期待できないんじゃないでしょうか。
もちろん、重説への記載・説明事項とすることは、じわじわと外堀りを埋めていく一部なのかも知れませんので何とも言えませんが、この改正自体が直接インスペクション促進につながるとは思えないことは確かだと思います。
4. 中立性
不動産業者があっせんする業者が実施する、としている部分について中立性を問題にする向きもあります。中立性が確保されなければインスペクションが信認を得て普及していくことはないでしょうが、この部分については「それが現実的でしょ」という意味ぐらいしかなく、当事者が自らインスペクション業者を選定することを妨げる趣旨ではないのではないかと推測しています(あくまで推測です)。
実際には、この中立性問題はインスペクションに限らず意外と奥深く、社会各所でズブズブ案件が転がっているとは思うのですが、これも本筋から外れるので今日は深入りしないでおきます。ちなみに現実には、仲介業者がインスペクション業者を兼ねている場合、仲介業者が特定のインスペクション業者と事実上の「お得意様」関係にある場合、資本関係がある場合など今でも様々あります。もちろん、一方で何らの利害関係のない中立なインスペクションがたくさん行われているのも確かです。
5. まとめ
まとめというのもおかがましいですが、個人的にはインスペクションが普及したらいいな、と思っているので、今回の改正案が悪いこととは思いません。
ただし、インスペクションのニーズは買主側からは一定程度ある一方、売主側からは疎まれるという傾向にあるという現実からすれば、この程度のことで何かが変わるようなものではないと思います。
ただ、中古住宅診断・インスペクションが、常に重説に記載される程度に承認された言葉になること自体には多少の意味があるのかも知れません。しかし、骨抜きな内容で承認されるよりも、実のある形になるまで承認されない方がマシなのではないかと思うところもあります。
この問題を考えるとき、住宅の担保価値評価の問題や、欧米との建物構造の違いなど、留意すべき点や課題はあると思うのですが、エージェント化されていない日本の不動産売買仲介の問題にも結局のところ行き当たるような気もします。
関連記事とスポンサーリンク
スポンサーリンク
griffinさん
不動産に関する様々な視点からのブログ記事大変興味深く拝見致しました。
未経験からの参入すごいですね!
新しい記事楽しみにしております^^
参入しただけですから…(笑)。
もうちょっと余裕が出来れば、ブログももっと色々書けるのかも知れないのですけど、なかなかです。
でも、細々とでも続けます。またご覧になってください。
コスモさん、ありがとうございます。
中古の売買で購入希望者からインスペクション実施要求を受けました。どんな内容かも理解していて、税制優遇まで把握していました。そのお客様。
面倒ではありましたが、実施し、双方納得の売買でした。
義務化してほしいです。なにしろ、業者が安心です(笑)
新築よりも中古が主流になれば、当然のニーズだと思うのですが。
cherryredさん、コメントありがとうございます。
今は売主(側)が応じるかどうかが、なんだかんだと高いハードルですが、インスペクションを通じて双方納得になれば少々の手間も安いものだと思います。
義務化までは道のりが遠いと思いますが、せめて「普通」のことになればいいなあ、と思います。現実は違う方向へ行く予感もしますが…。
他の問題も含め、本気で中古流通活性化を目指すかどうかだと思います。